
NISAで購入した株式や投資信託の価格が下がると、「ほかの株の利益と相殺できないのか」「確定申告をすれば税金が戻るのではないか」と考える人もいるのではないでしょうか。
結論からいうと、NISA口座で発生した損失は、特定口座や一般口座で得た利益との損益通算ができません。
翌年以降に損失を持ち越す、3年間の繰越控除も対象外です。
一方、2024年から始まったNISAでは、保有商品を売却すると、その商品の取得金額に相当する非課税保有限度額を翌年以降に再利用できます。
ただし、非課税保有限度額を再利用できることと、売却による損失を税金から差し引けることは別の仕組みです。
損失が出ているからといって、必ずしも急いで売却する必要はありません。売却するか保有を続けるかは、税金だけでなく、投資目的や運用期間、値下がりした理由などを踏まえて判断することが大切です。
そこで今回は、NISAで損失が出た場合の税金の扱いと、損益通算・繰越控除ができない理由、損失が出たときに確認したい対処法を解説します。
NISAで損失が出ても損益通算・繰越控除はできない
NISA口座で取得した上場株式や投資信託を売却して損失が出ても、その損失は税務上「なかったもの」とみなされます。
そのため、特定口座や一般口座で得た上場株式等の譲渡益や配当等から、NISA口座の損失を差し引くことはできません。
| 状況 | 税金上の扱い |
|---|---|
| NISA口座で含み損が出ている | 売却していないため、損失は確定していない |
| NISA口座で売却損が出た | 税務上、損失はなかったものとみなされる |
| 課税口座で利益が出ている | NISA口座の損失とは損益通算できない |
| NISA口座の損失を翌年に持ち越したい | 3年間の繰越控除は利用できない |
| NISA口座の損失を確定申告したい | 申告しても損益通算や繰越控除には利用できない |
NISA口座の損失だけを理由に確定申告をしても、その損失によって所得税や住民税が還付されることはありません。
給与以外の所得や医療費控除など、ほかに申告が必要となる事情がある場合は、NISAの損失とは別に確定申告の要否を確認してください。
NISAの損失が損益通算できない理由
NISAは、口座内で対象商品から得た譲渡益や、一定の配当金・分配金を非課税にする制度です。
通常、上場株式等の譲渡益には、所得税・復興特別所得税と住民税を合わせて原則20.315%の税金がかかります。
NISA口座で対象商品を売却して利益が出た場合、その譲渡益には原則として税金がかかりません。
一方、売却して損失が出た場合は、その損失も税務上ないものとして扱われます。
そのため、「利益が出たときはNISAの非課税制度を利用し、損失が出たときだけ課税口座の利益から差し引く」という使い方はできません。
上場株式の配当金は受取方法にも注意
NISA口座で保有する上場株式、ETF、REITなどの配当金や分配金を非課税で受け取るには、原則として「株式数比例配分方式」を選択する必要があります。
株式数比例配分方式とは、配当金を証券会社の口座で受け取る方法です。
配当金領収証方式や登録配当金受領口座方式など、発行会社から直接支払われる方法を選択している場合は、NISA口座で保有していても配当金が課税されることがあります。
なお、公募株式投資信託の普通分配金については、上場株式の配当金とは取り扱いが異なります。
NISAで30万円の損失が出た場合の例
例えば、同じ年に次の取引があったとします。
- NISA口座:30万円の売却損
- 特定口座:30万円の譲渡益
NISA口座で発生した30万円の損失は税務上ないものとみなされるため、特定口座の30万円の譲渡益とは相殺できません。
取得費や売却手数料などを差し引いた後の課税対象となる譲渡益が30万円で、ほかに通算できる損失がない場合、税額の目安は約6万945円です。
30万円×20.315%=6万945円
NISA口座で同じ金額の損失が出ていても、この税額を減らすためには利用できません。
課税口座の損失なら損益通算できる場合がある
NISA口座ではなく、特定口座や一般口座などの課税口座で上場株式等の譲渡損失が発生した場合は、一定の条件を満たせば損益通算できることがあります。
損益通算の対象になる可能性があるのは、主に次の利益です。
- ほかの上場株式等の譲渡益
- 申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得等
ただし、課税口座の損失であれば、すべての利益と相殺できるわけではありません。
例えば、上場株式等の譲渡損失と、非上場株式などの一般株式等の譲渡益は、原則として区分をまたいで損益通算できません。
配当所得と損益通算する場合は、申告分離課税を選択するなどの条件があります。
源泉徴収ありの特定口座に配当等を受け入れている場合は、同じ口座内で証券会社が損益通算することもあります。
口座の種類や取引内容、配当金の申告方法によって取り扱いが異なるため、実際に確定申告をする場合は国税庁の案内や税務署、税理士へ確認してください。
NISAの損失は3年間の繰越控除もできない
課税口座で上場株式等の譲渡損失が発生した場合、確定申告などの要件を満たすことで、控除しきれなかった損失を翌年以降3年間にわたって繰り越せる場合があります。
これを「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除」といいます。
例えば、課税口座で2026年に50万円の損失が発生し、2027年に50万円の譲渡益が出た場合、必要な確定申告を行っていれば、前年の損失と翌年の利益を相殺できる可能性があります。
繰越控除を利用するには、損失が発生した年に必要書類を添えて確定申告を行い、その後も繰越控除を受ける年まで申告を続ける必要があります。
株式取引がなかった年であっても、損失を翌年へ繰り越すために確定申告が必要になることがあります。
一方、NISA口座で発生した損失は、最初から繰越控除の対象外です。
2026年にNISA口座で50万円の損失が出ても、その損失を2027年以降の譲渡益や配当所得等から差し引くことはできません。
NISAで含み損が出ているだけなら損失は確定していない
保有している株式や投資信託の評価額が購入金額を下回っていても、まだ売却していなければ「含み損」の状態です。
例えば、100万円で購入した投資信託の評価額が80万円まで下がっている場合、証券会社の画面上では20万円のマイナスと表示されます。
しかし、商品を売却するまでは、20万円の損失が確定したわけではありません。
その後に価格が回復する可能性もあれば、さらに値下がりする可能性もあります。
含み損が出たという理由だけで慌てて売却するのではなく、当初の投資目的や運用期間、保有商品の内容を改めて確認しましょう。
NISAで損失が出たときに確認したい5つの対処法
1.値下がりした理由を確認する
まずは、保有商品が値下がりした理由を確認します。
市場全体が下落しているのか、その企業や業種だけに問題が発生しているのかによって、今後の判断は異なります。
投資信託の場合は、組み入れている国や地域、業種、為替相場の変動が影響している可能性もあります。
一時的な相場変動なのか、購入時に想定していた投資条件が変わったのかを分けて考えることが重要です。
2.お金を使う時期と運用期間を確認する
近いうちに住宅購入費や教育費、生活費として使う予定のお金を投資している場合、価格が回復するまで長期間待てないことがあります。
一方、老後資金などを目的として長期間運用する予定であれば、短期的な値下がりだけで売却を決めない選択肢もあります。
投資期間が当初の計画と合っているか、生活に必要な資金を十分に確保できているかを確認しましょう。
3.特定の銘柄や業種に偏っていないか確認する
一つの企業や業種に資金が偏っていると、その投資先が値下がりしたときに、資産全体が大きく減少しやすくなります。
保有商品の投資先や組入銘柄を確認し、特定の国、業種、企業などに偏りすぎていないかを確認しましょう。
ただし、投資信託の本数を増やせば、必ず分散投資になるわけではありません。
名称が異なる投資信託でも、組み入れている銘柄や投資対象が重複している場合があります。
4.節税だけを目的に損切りしない
課税口座では、損益通算を目的として、含み損のある商品を年内に売却する方法が検討されることがあります。
しかし、NISA口座の損失は損益通算できないため、節税だけを目的に損失を確定させる効果はありません。
売却するかどうかは、今後も保有したい商品なのか、現在の投資方針に合っているのかを基準に判断しましょう。
5.今後の積立額や投資商品を見直す
値下がりによって不安が強くなった場合、現在の投資額や保有商品の値動きが、自分のリスク許容度を超えている可能性があります。必ずしも保有商品をすべて売却する必要はなく、今後の積立額を減らしたり、新規購入する商品の配分を見直したりする方法もあります。
反対に、価格が下がったという理由だけで、商品の内容を確認せず追加購入することにも注意が必要です。
追加購入後も価格が下がり続ければ、損失額がさらに大きくなる可能性があります。
損失が出た商品を売却するとNISAの非課税枠はどうなる?
2024年からのNISAでは、保有商品を売却すると、その商品の取得金額に相当する非課税保有限度額を翌年以降に再利用できます。
再利用できる金額は、売却時の価格ではなく、購入時の取得金額である「簿価」を基準に計算されます。
100万円で購入した商品を70万円で売却した場合
- 購入金額:100万円
- 売却金額:70万円
- 売却損:30万円
- 翌年以降に再利用できる非課税保有限度額:100万円分
30万円の売却損を課税口座の利益から差し引くことはできません。一方、売却した商品の取得金額である100万円分については、翌年以降に非課税保有限度額を再利用できます。
税金から差し引ける損失と、再利用できる非課税保有限度額を混同しないようにしましょう。
非課税保有限度額が復活しても年間投資枠は増えない
売却した商品の簿価分を再利用できるようになるのは、売却した年の翌年以降です。
売却した年に利用した年間投資枠が、その年のうちに復活するわけではありません。
NISAの年間投資枠は、次のとおりです。
| 区分 | 年間投資枠 |
|---|---|
| つみたて投資枠 | 年間120万円 |
| 成長投資枠 | 年間240万円 |
| 合計 | 年間360万円 |
非課税保有限度額は合計1,800万円で、そのうち成長投資枠で利用できる金額は1,200万円までです。
商品を売却して非課税保有限度額を再利用できるようになっても、つみたて投資枠と成長投資枠の年間上限を超えて買い付けることはできません。
NISAで売却して同じ商品を買い直すときの注意点
NISA口座で含み損のある商品を売却し、同じ商品をその年のうちに買い直しても、すでに利用した年間投資枠は戻りません。
買い直す場合は、その年に残っている年間投資枠を新たに使用します。
例えば、成長投資枠で100万円分の商品を購入して売却し、同じ年にもう一度100万円分を購入すると、その年に使用した成長投資枠は合計200万円です。最初に購入した100万円分を売却しても、使用済みの年間投資枠が100万円に戻るわけではありません。
また、売却してから買い直すまでに価格が上昇し、以前より高い価格で購入することになる可能性もあります。
売却と再購入を短期間で繰り返すと、年間投資枠を効率的に利用できない場合があるため注意しましょう。
NISAと課税口座は使い分けたほうがいい?
NISAは譲渡益などが非課税になる一方で、損失が出ても損益通算や繰越控除ができません。
課税口座は利益に税金がかかりますが、一定の上場株式等の損失については、損益通算や繰越控除を利用できる場合があります。
| 比較項目 | NISA口座 | 課税口座 |
|---|---|---|
| 対象商品の譲渡益 | 原則非課税 | 原則20.315%課税 |
| 売却損 | 税務上ないものとみなされる | 一定の条件で損益通算できる |
| 繰越控除 | 利用できない | 一定の条件で翌年以降3年間利用できる |
| 年間投資枠 | 上限がある | NISAのような年間投資枠はない |
どちらの口座を利用するのがよいかは、投資目的や運用期間、取引する商品によって異なります。
将来値上がりする商品と値下がりする商品を、購入前に確実に見分けることはできません。
損益通算の可否だけで決めるのではなく、非課税メリットや投資期間、利用できる投資枠なども含めて検討しましょう。
損失をきっかけに証券会社を変更すると解決する?
NISAを利用する金融機関を変更しても、すでに発生した損失を損益通算できるようにはなりません。
損益通算や繰越控除ができないというNISAの税制上のルールは、利用する証券会社や銀行にかかわらず共通です。
また、変更前の金融機関のNISA口座で保有している株式や投資信託を、変更後の金融機関のNISA口座へ移管することはできません。
変更前の金融機関で保有している商品は、その金融機関のNISA口座で引き続き非課税保有するか、売却することになります。
金融機関を変更した後も、変更前の金融機関で保有を続ける商品の配当等や譲渡益は、NISAの要件を満たしている限り引き続き非課税です。
一方、証券会社や銀行によって、取り扱っている投資信託や株式、積立方法、ポイントサービス、取引画面の使いやすさなどには違いがあります。
現在の金融機関で購入したい商品を取り扱っていない場合や、積立設定が使いにくい場合は、翌年以降に利用する金融機関を見直すことも選択肢です。
関連記事:NISAの証券会社を変更すると保有商品はどうなる?移管・積立設定の注意点
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NISAを利用する証券会社を見直したい方へ
NISA口座で発生した損失は、証券会社を変更しても損益通算できるようにはなりません。
ただし、証券会社によって、取扱商品、積立方法、ポイントサービス、アプリの使いやすさ、サポート内容などは異なります。
現在の証券会社で購入したい商品を扱っていない場合や、サービスが自分に合っていない場合は、翌年以降に利用する金融機関を比較してみましょう。
※サービス内容、取扱商品、手数料、ポイントサービス、キャンペーンなどは変更される場合があります。申込み前に各証券会社の公式サイトで最新情報をご確認ください。
NISAの損失に関するよくある質問
NISAで含み損が出たら確定申告は必要ですか?
NISA口座で含み損が出ているだけであれば、その含み損を理由に確定申告をする必要はありません。売却して損失が確定した場合も、NISA口座の損失は損益通算や繰越控除に利用できません。
ただし、給与以外の所得や医療費控除など、別の理由で確定申告が必要になる場合はあります。
NISAの損失を特定口座の配当金と相殺できますか?
NISA口座で発生した損失を、特定口座や一般口座で受け取った配当金と相殺することはできません。
課税口座で発生した一定の上場株式等の譲渡損失については、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得等と損益通算できる場合があります。
つみたて投資枠の損失も損益通算できませんか?
つみたて投資枠で発生した損失も、損益通算や繰越控除には利用できません。
成長投資枠とつみたて投資枠のどちらで購入した商品であっても、NISA口座内で発生した損失は税務上なかったものとみなされます。
2023年までの旧NISAで出た損失はどうなりますか?
2023年までの一般NISAやつみたてNISAで発生した損失についても、損益通算や繰越控除はできません。
また、2023年までのNISAで保有している商品は、2024年からのNISAに設けられた非課税保有限度額1,800万円の外枠で管理されます。
旧NISAで保有する商品を売却しても、2024年からのNISAの非課税保有限度額が増えるわけではありません。
NISAで損失が出たら積立をやめるべきですか?
損失が出たという理由だけで、必ず積立をやめる必要があるとは限りません。
一方、値下がりによって生活に影響が出るほど不安を感じる場合は、積立額や保有商品の値動きが自分に合っていない可能性があります。
生活費や近いうちに使用する予定のお金を確保したうえで、無理のない投資額になっているか確認しましょう。
NISAの損失を確定申告書に記載できますか?
NISA口座で発生した売却損は税務上ないものとみなされるため、課税口座の譲渡損失として確定申告書に計上し、税金を減らすことはできません。
取引内容や確定申告の方法が分からない場合は、利用している金融機関や税務署、税理士へ確認してください。
損失が出た商品を売れば、その年にNISA枠を使い直せますか?
売却した年に年間投資枠を使い直すことはできません。
売却した商品の簿価に相当する非課税保有限度額を再利用できるのは、翌年以降です。
翌年以降も、つみたて投資枠は年間120万円、成長投資枠は年間240万円という年間投資枠の範囲内で買い付ける必要があります。
まとめ
NISA口座で発生した損失は税務上なかったものとみなされるため、特定口座や一般口座の利益との損益通算はできません。
確定申告をしても、NISA口座の損失を翌年以降3年間に繰り越すことはできません。
一方、2024年からのNISAでは、商品を売却すると、その商品の取得金額に相当する非課税保有限度額を翌年以降に再利用できます。ただし、売却した年の年間投資枠が、その年のうちに復活するわけではありません。
損失が出たときは、節税だけを理由に慌てて売却するのではなく、値下がりした理由や投資目的、運用期間、資産配分を確認することが大切です。
現在の証券会社で希望する商品を購入できない場合や、積立方法が自分に合っていない場合は、今後利用するNISA口座や証券会社の見直しも検討しましょう。
※本記事は一般的な制度を解説するものであり、特定の金融商品の購入や売却を推奨するものではありません。税務上の取り扱いは個別の状況によって異なる場合があるため、詳しくは税務署、税理士、利用している金融機関などへご確認ください。