セブン-イレブンが導入した革新的な生成AI基盤「AIライブラリー」の全貌

全国21,000店舗以上を展開し、日々2,000万人が利用するセブン-イレブンが、2025年8月までに全社員約8,000人が利用できる生成AI基盤「AIライブラリー」を本格導入します。13種類のAIモデルを使い分け、商品企画から店舗運営まで幅広い業務を革新するこの取り組みについて、詳しく解説します。

データの力で全国の店舗を支える「セブンセントラル」

セブン-イレブンのAI発注システム

セブン-イレブンのAI活用を理解するには、まず同社が持つ強力なデータ基盤について知る必要があります。

セブン-イレブンでは、創業以来50年以上にわたって「データに基づく意思決定」を企業文化の中核に据えてきました。毎朝、社長から店舗の経営相談員まで、全ての従業員が同じシステムで全店舗の売上データを確認し、それぞれの業務に活かしています。これは数十年間続けられてきた習慣で、同社の競争力の源泉となっています。


セブンセントラルの驚異的な処理能力

52億件
1日の処理レコード数
1分
最短データ取得時間
21,000店舗
リアルタイム連携

この膨大なデータを処理するために構築されたのが「セブンセントラル」というデータ活用基盤です。Google CloudのBigQueryやSpannerという最先端技術を使って、全国の店舗データをリアルタイムで集約・分析しています。

以前は翌日の朝にならないと手に入らなかった全国の店舗データが、今では最短1分で取得できるようになりました。この技術革新により、自然災害時の在庫把握や、人気商品の即座な補充など、様々な場面で迅速な対応が可能になっています。

「データ民主化」実現への挑戦

しかし、いくら優れたデータ基盤があっても、それを自由に使いこなせるのはシステム部門の専門家や一部のデータアナリストだけでした。多くの社員がデータを活用したい時は、システム部門に依頼する必要があり、ビジネスのスピード感や分析の自由度に大きな制約がありました。

「私たちは真のデータの民主化には至っていなかった」

— セブン&アイ・ホールディングス執行役員CIO 西村出氏

全社員がデータを自由自在に使いこなすためには、専門的なスキルを身につけるリスキリングが必要でしたが、そのハードルは高く、時間もかかります。この課題を解決するために目を付けたのが、2023年に世界的に注目された「生成AI」技術でした。

13種類のAIモデルを使い分ける「AIライブラリー」

セブン-イレブンの生成AI活用事例

出典:LAUHP AI

セブン-イレブンが構築した「AIライブラリー」の最大の特徴は、13種類もの異なるAIモデルを使い分けられることです。それぞれのAIには得意分野があり、業務内容に応じて最適なAIを選択できるようになっています。

主要AIモデル一覧

Claude(クロード)

開発元:Anthropic

複雑な分析タスクに優れ、創造的なアイデア出しが得意

Gemini 2.5 Pro

開発元:Google

大量のテキスト処理が得意で、アンケート集計に最適

GPT-4

開発元:OpenAI

汎用性が高く、幅広い業務に対応可能

その他10種類

開発元:各社

特定業務に特化した専門モデル

この「適材適所」のアプローチにより、それぞれの業務で最高のパフォーマンスを発揮できるようになっています。例えば、大量の文章を処理する場合は一度に多くの情報を処理できるGemini 2.5 Proが推奨され、創造的なアイデア出しが必要な商品企画では発想力に優れたClaudeが活用されています。

商品企画の期間を大幅短縮


劇的な効率化を実現

10分の1
商品企画期間の短縮
従来:数か月 → AI活用後:数週間

AIライブラリーの最も印象的な成果の一つが、商品企画プロセスの劇的な効率化です。従来は数か月かかっていた商品企画の期間を、大幅に短縮することに成功しました。

従来の商品企画プロセス

  • 市場調査(数週間)
  • データ分析(数週間)
  • アイデア出し(数週間)
  • 検証・改善(数週間)

AI活用後のプロセス

  • AIによる市場データ分析(数時間)
  • SNS投稿の自動分析(数時間)
  • AIによるアイデア提案(数時間)
  • 迅速な検証・改善(数日)

具体的には、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSデータをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)で取得し、膨大な量の投稿内容をAIが自動分析します。その結果を基に、トレンドを捉えた商品アイデアを素早く生成できるようになったのです。

実際の業務での活用事例

セブン-イレブンのAI活用業務

出典:NEC wisdom

現在、AIライブラリーは20部門約4,000人の社員によって様々な業務で活用されています。主な活用事例を詳しく見てみましょう。


議事録作成の自動化

会議の音声をテキストに変換し、重要なポイントを自動的にまとめます。従来は手作業で数時間かかっていた議事録作成が、数分で完了するようになりました。


商品説明資料の生成

新商品の特徴や魅力を分析し、加盟店向けの説明資料を自動生成します。統一された品質の資料を短時間で作成できるため、情報伝達の精度と速度が向上しています。


データ分析レポート作成

売上データや顧客動向を分析し、分かりやすいレポートを自動生成します。専門知識がなくても、データから重要な洞察を得ることができるようになりました。


SNS投稿の分析

X(旧Twitter)やInstagramの投稿を分析し、商品やサービスに対する顧客の声を自動的に収集・分析します。これにより、市場の反応を素早く把握し、改善に活かせるようになりました。

安全性と品質管理への取り組み

生成AIの活用において最も重要なのが、情報の安全性と品質の確保です。セブン-イレブンでは、以下のような対策を講じています。


データ漏洩対策

  • 社内データは外部に送信されない仕組み
  • アクセス権限の厳格な管理
  • 定期的なセキュリティチェック


ハルシネーション対策

  • 複数のAIモデルによる情報の相互検証
  • 人間による最終確認プロセスの維持
  • 継続的な精度向上のための学習データ更新


品質管理

  • 定期的な出力品質の評価
  • ユーザーフィードバックの収集と反映
  • 専門チームによる運用監視

ソーシャルメディアでの反響

セブン-イレブンの生成AI導入は、ソーシャルメディアでも大きな注目を集めています。


X(旧Twitter)での反響

「セブンイレブンは2025年8月までに13種のLLMを使い分けられる生成AI基盤を全社員約8000人に展開予定」

多くのユーザーから「すごい取り組み」「他の企業も続いてほしい」といった好意的なコメントが寄せられています。

また、2025年春に投稿されたセブンイレブン関連のSNS投稿を分析した結果、最も多く使われた単語は「食べる」「美味しい」「パン」であり、食に関するワードが上位を占めていることが判明しました。このような分析結果も、AIライブラリーを活用した商品企画に役立てられています。

展開スケジュールと今後の展望

AIライブラリー展開ロードマップ

2023年8月
基盤構築
2024年9月
20部門4,000人
2025年8月
全社員8,000人

期待される効果

業務効率の向上
ルーティン作業の自動化により、より創造的な業務に集中
顧客サービス向上
データ分析の高速化により、顧客ニーズへの迅速な対応
商品開発の加速
市場トレンドの即座な把握による商品企画の効率化
従業員満足度向上
単純作業の削減による働きがいの向上

他企業への影響と業界変化

小売業のAI活用事例

セブン-イレブンの取り組みは、小売業界全体にも大きな影響を与えています。同社の成功事例を受けて、他のコンビニエンスストアチェーンや小売企業でも生成AI導入の検討が始まっています。

業界に与える影響

民主化されたAI活用

専門知識を持たない一般社員でも、自然な言葉でAIと対話できるインターフェースの実現

複数AIモデルの使い分け

業務内容に応じて最適なAIを選択できるシステムの構築

データドリブン経営の進化

従来のデータ分析を超えた、リアルタイムでの意思決定支援

課題と対策

一方で、全社展開に向けては以下のような課題も存在します。

主な課題

デジタルデバイドの解消

年齢や経験によってAI活用能力に差が生じる可能性

人間の判断力維持

AIに依存しすぎることによる創造性の低下懸念

技術進歩への対応

日進月歩のAI技術の最新動向への継続的対応

対策アプローチ

継続的な教育・支援

すべての社員が等しくAIの恩恵を受けられるよう、段階的な研修プログラムを実施

バランスの取れた活用

AIと人間の役割分担を明確化し、人間本来の判断力を維持

アップデート体制

最新技術動向の継続的なキャッチアップとシステム更新

まとめ:AIと人間が協力する未来の小売業


未来への展望

セブン-イレブンの「AIライブラリー」は、単なる技術導入を超えて、人間とAIが協力してより良いサービスを提供する新しい働き方のモデルを示しています。

この取り組みの本質は、AIに仕事を奪われるのではなく、AIと人間がそれぞれの得意分野を活かして協力することにあります。AIは大量のデータ処理や繰り返し作業を担当し、人間はより創造的で価値の高い業務に集中できるようになるのです。

私たちが普段利用しているセブン-イレブンの店舗では、今この瞬間にも、AIが裏で動いて商品の補充を提案し、新しい商品のアイデアを考え、お客様の声を分析しています。そして、その結果をもとに、店舗スタッフや本部の社員が、より良いサービスを提供するために働いているのです。

この革新的な取り組みは、コンビニエンスストア業界だけでなく、様々な業界にとって参考になる事例となるでしょう。セブン-イレブンが描く「AIと人間が協力する未来」は、私たちの働き方や生活そのものを大きく変える可能性を秘めているのです。